コート・ド・ニュイの北から。第1弾はコート・ドール最北のAOC、マルサネから始まります。

マルサネのテロワール
コート・ドール最北のAOCで、かつては冷涼な気候ゆえに酸が際立つワインの産地とされてきました。
しかし近年は気候の変化と栽培技術の進化により、ブドウは安定して完熟し、赤ワインの品質が飛躍的に向上しています。
標高300m前後の穏やかな東南向き斜面に畑が広がり、母岩はジュヴレ・シャンベルタンと同じくジュラ紀中期のウミユリ石灰岩。海底のサンゴやウミユリの化石が堆積してできた石灰岩母岩は、ワインに特有のミネラル感や張り、硬質な酸のテクスチャーを与えます。
表土は豊かな粘土質表土であり、保水性に優れ干ばつに強く、ワインに豊かな果実味をもたらします。
現在では、シルヴァン・パタイユら新世代の造り手に加え、メオ・カミュゼやドニ・モルテといった老舗ドメーヌも手掛けることで、マルサネは再評価の時代を迎えています。
ドメーヌ・ジャンテ・パンショ
1954年、エドモン・ジャンテ氏によって創設されたジュヴレ・シャンベルタンに本拠を置くドメーヌ。現在は息子のヴァンサン氏、そして孫のファビアン氏へと世代が受け継がれ、三代にわたって家族経営を続けています。
ドメーヌは、古樹のピノ・ファン(小粒のピノ・ノワール)を多く栽培し、凝縮した果実味と複雑味が特徴です。100%の除梗や、低温マセラシオンを行うことで、果実の繊細さや柔らかなタンニンを引き出します。
栽培はリュット・レゾネ(減農薬農法)を実践。収穫は手づみで行い、畑と醸造所で3度にわたり丁寧に選果を行います。100%除梗後、低温で数日から1週間程度のマセラシオン(発酵前に果皮や種子を漬け込み、香りと色を柔らかく引き出す工程)を経て、温度管理された木樽でキュヴェゾン(アルコール発酵)を行います。熟成は木樽で14ヶ月から20ヶ月にわたり行い、新樽率は産地によって調節しています。
こうしてできるワインは、古樹特有の凝縮感と複雑味を備えながら、丁寧な醸造による繊細さと柔らかさも併せ持ちます。力強さと繊細さが同居する、非常に魅力的なスタイルに仕上がります。
テイスティンング

外観
透明感のある赤紫色。輝きがあり、青みを帯びた若々しい印象。
香り
第1アロマ(果実由来の香り)が主体で、比較的しっかりと立ち上がります。フレッシュなラズベリーを思わせる果実香。花や葉、スパイスや樽のニュアンスは控えめで、純粋な果実の甘やかさと酸を期待させる香り立ちです。
味わい
アタックは穏やかで、甘みは少なくソフト。酸が主軸を成し、軽やかさを感じます。タンニンは収れん性が弱く、非常にシルキー。酸と繊細なタンニンのバランスで、しなやかな骨格を形成しています。アルコールは中程度。余韻は控えめなタンニンが滑らかに続き、中程度の長さです。
総評
シンプルでフレッシュな果実味を楽しむスタイル。現時点では酸が主体ですが、果実の甘みが少し加わることで、よりエレガントなバランスに成長する可能性を感じます。
まとめ
若々しい酸とピュアな赤果実が印象的な一本。マルサネという産地が持つ冷涼さと素直な果実味、そしてパンショらしい繊細な醸造が見事に調和していました。
北から始まるコート・ド・ニュイの旅。
次は同じパンショの手によるマルサネ・シャンペルドリへ。森の湿度と果実の凝縮が交わる、もう一歩深い世界を訪ねます。

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